銭形平次と鬼平犯科帳
徳永忠雄 |
♪~男だったら 一つにかける かけてもつれた 謎をとく…
後存知『銭形平次』の主題歌冒頭です。平次が出かけるときに軒先で妻お静に切り火を切ってもらい出かけるシーンを覚えている人も少なくないでしょう。
しかしこの歌詞の内容を読み、「謎をとく」から「科学論」を想起することは普通の発想ではありません。ここのところを庄司さんはこう書いています。
「…すなわち「かける」ことで予想を持つことの大切さを言い切り、「決めて」という一言は、つまり実験に相当するんだと、きっちり何気なく表明しているんです。そして「謎をとく」という文言で、それでこそ科学の本質を、すかっと浮上させているんです。そう解釈しうるゆえに、この主題歌は、あだやおろそかには、できないんです」(「楽しい理科授業」明治図書1997.12)
膨大な庄司和晃資料整理も終盤に差し掛かっています。ナンバリングでは2000番も近くなりました。ファイルケースで400箱、知の庄司和晃は、様々なものに触手を伸ばし、化学反応をさせて認識論と全面教育学に昇華させていきました。
銭形平次もその一つです。主に看護学校の授業の中でこのエピソードは使われていることが講義のレジュメで分かります。では庄司さんが日々TVで「銭形平次」を見ていたかというとそうではないようです。銭形平次の出どころは、三浦つとむさんと書かれているのです。(前掲雑誌)三浦さんが病に倒れてから病室でくだんの「銭形平次」を見ていたようで、見舞いにおとずれた研究者に「謎解きの銭形平次親分になるんですよ」と声をかけていたと庄司さんは述懐しています。
この歌詞の3番に「道はときにも曲がりもするが 曲げちゃならない人の道…」と続きます。曲げちゃならない人の道ですが、庄司さんの「裏街道教育」(全面教育内)の発見では、スリややくざ、テキ屋、等々の育成にも立派な教育があったと分析していることも忘れてはいけないことでしょう。
池波正太郎作『鬼平犯科帳 2』(文春文庫)の「女掏(す)摸(り)お富」では、スリとして育てられた孤児のお富に養父が死に際に「貧乏人から決して取ってはならねえ」「二三人で徒党を組んで汚え真似はするんじゃねえ」と言い残し、この世界にも掟や仁義があることを庄司さんは語っていました。ここにも全面教育の資料の発見があるわけなのです。我々は目下庄司さんがどこで鬼平を読んでいたのか知るべく資料を整理しているのですが今のところ手がかりは見つかっていません。しかし前科学の時代には見るべきものがたくさんあるという手応えは感じています。
なお、TV「銭形平次」のテーマソングを作曲された安藤実親さんは、今月6日逝去されました。
ご冥福をお祈りいたします。(と)2022.5.10
◆お知らせ
・今沢正史さんから『実践編人生充実論』を出版しましたと連絡をいただきました。4月7日の山梨日日新聞にも紹介された本書は『人生充実論』の続編です。「実践編科学労働論」と「実践編悟り」という2部構成でみずからの体験を踏まえた渾身の内容となっています。
・ことば遊び研究の第一人者・向井吉人さんの「ことばっちの冒険・2022(1)」と小冊子「ことわざくずし その技法と作品」ができあがりました。コトワザを縦横無尽にことば遊び化する例を丁寧に分類されて見事です。
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